“地域の絆”を大切に 屋号はそのまま残し、夢の実現に向けて二人三脚で独立開業
「年内にもどなたかに事業承継をしたい」
2023年9月、小田急線・六会日大前駅近くの住宅街で、30年近くに渡ってつづいてきた調剤薬局(桜花堂薬局)の前オーナー様から突然の、切実な連絡を受けました。
年内というと残り3ヶ月ほど。
前オーナー様からは、「患者さんがこまらないような方に承継をしたい」と頼まれたものの、短期間で果たして地域の大切な調剤薬局を継承できる方を紹介できるのか―。
悩んでいた矢先、お会いしたのが、喜多村博之さん・友香さんご夫妻でした。
お二人は、いま、独立開業されどのような薬局を経営されているのでしょうか。そして、私はご期待に応えることができたでしょうか。お二人にお話を伺いました。
(白形優太)
桜花堂薬局(株式会社喜多村ファーマシー)喜多村博之さん、喜多村友香さんへのインタビュー

居心地のいい薬局に
お二人のもとを伺ったのは猛暑だった去年の8月、店内は、カーテンがピンク色に、壁面は緑色に内装が変わっていました。
「待ち時間も居心地のよい空間にしたい」というお二人の想いから、一つずつ趣向を凝らしていったそうです。
――とてもいい雰囲気ですね。今後はどのように手を入れていく予定ですか?
友香さん:バリアフリー化ですね。入口をスロープにして、お年寄りがつまずいたりしないようにしたいし、車いすでも入りやすいようにしたいと思っています。あとは、待っている間も居心地よく過ごせるような工夫をしたいです。といっても、待ち時間は一人当たり5分以内をめざしていますが。

――店販の品ぞろえもユニークですね。健康食品やヘルスケアグッズだけでなく、お菓子や缶詰、カップメンまであって。
友香さん:この辺はご高齢の患者さんが多くて、近所のスーパーに足を運ぶだけでも億劫だという声が多いのです、なので手軽に召し上がれる食品を置いています。飴やスナック菓子などは、ほぼ全員が買って行きますね。
博之さん:飴は本当によく売れますね。あとは、トイレットペーパーとか、日常生活の必需品も。
喜多村さんご夫妻 独立開業までの道のりは?
――友香さんはいつ頃から薬剤師になりたいと思っていたんですか?
友香さん:小学校1年生のときに大好きな祖母ががんで亡くなったことがきっかけでした。当時は、どんな病気も薬を飲めば治ると思っていたので、父母にそう話したら、「いや、がんは薬を飲んでも治らない」と言われて。じゃあ私が、治せる薬をつくろうと、薬学の道に進むことを決めました。
でも、大学で薬学を学ぶ中で、今ある薬で患者さんがどう快方に向かうのかとか、入院されている方が回復して退院して行く経過を、近くで見ていたいなっていう気持ちがすごく強くなって。新卒で湘南鎌倉総合病院に就職しました。

――ご主人とはどのように出会ったんですか。
友香さん:主人とは、就職から5年目か6年目に出会って、7年目ぐらいに結婚しました。当時彼は資材課にいましたが、結婚の翌年から社会福祉士の国家資格を取ると専門学校に通い始めて、私は出産を機に9年目で退職しました。主人も資格取得と同時に福祉業界に転職しました。
――福祉業界といいますと?
博之さん:特養(特別養護老人ホーム)です。
――福祉関係の職場の中でも特養を選んだのには理由があるんですか?
博之さん:義理の祖母が介護状態になった際、何もしてあげられない自分にもどかしさを感じたのがきっかけです。自分には知識も技術もない。何ができるかなと考えて、まだ29歳と若かったので新たに勉強して、資格を取っても遅くないと。彼女は妊娠して、出産前まで働いてと大変な時期でしたが、1年間専門学校で勉強させてもらいました。
介護は、高齢になれば誰もが通る道なので、知識や技術をつけておけば将来役に立つだろうと思いました。
合計9年半くらい、2カ所の特養に勤めたところで、この場所で彼女の夢を叶える形で薬局を始めようという話になり、じゃあ支えようと。特養を辞めて、二人で独立開業することにしました。
特養の経験を強みにしたい
――薬局の仕事にも活かせるキャリアですよね。
博之さん:そうですね。特養での経験が役に立てると思いました。たとえば、薬の飲み方にも、高齢者ならではの必要な配慮があります。嚥下に問題のある患者さんには、錠剤を砕いたり、とろみをつけて飲んでいただいたりとか。
――積極的に相談にのってあげているんですね。
博之さん:介護についてはプロですから、これまでの仕事で培った知識が活かせるのはうれしいです。患者さんと彼女の、両方をサポートするのに最適なキャリアになりました。

――まさに、かかりつけ薬局ですね。
友香さん:オープンからまだ1年も経っていませんが、すでに数十人が、うちで一元化してくださいました。複数の病院にかかっている方のオーバードーズ防止にも役立っています。今ではだいぶ減ってきましたが、当初は、「2カ所の病院で同じ胃薬が出ています」とか「他の先生と下剤がかぶっていますので、こちらはカットしていいですね」とか、毎日のように主治医に電話していました。
もともと、薬局を一元化することで、処方がかぶるのを防いだり、各薬との相互作用に気を付けたりできたらいいなというのが、私が独立を考えたきっかけでしたから、理想に近づいてきました。
――普通は、疾病ごとに通っている病院とかクリニックの近くの薬局を利用するので、なかなか一元化はしてもらえないですよね。
友香さん:そうですね、そこは、日頃のコミュニケーションを通して理解していただくことが大切だと思います。それが、患者さんひとり一人の顔が見える薬局ならではの強みなのではないでしょうか。
――そうですね。それに大手だと、勤務のローテーションもあるし、転勤や退職もあるから、現実問題として“かかりつけ薬剤師”でいつづけるのは難しいですよね。
友香さん:自分の薬局なら、一つの場所で、患者さんをずっと見つめ続けることができますからね。湘南鎌倉総合病院を退職してから、街の調剤薬局で管理薬剤師として10年近く働いてきましたが、私は常に、そういう薬剤師になりたいと思っていました。

選択肢を示し、判断を待つ
――白形さんにお願いしてみてどうでした?
友香さん:親身になって私たちの話を聞いてくれました。私たちはわからないことだらけでしたが、全部解決策を教えてくださって、納得するまで付き合っていただき、話を進めることができました。
博之さん:本当に暗闇の中を歩いている感じだったから、白形さんがいなかったら、何も進められなかったと思います。
――印象に残っているアドバイスはありますか?
友香さん:いつも選択肢を提示していただけたのがよかったです。普通、私たちみたいな知識のない人間が相手だと、「こうしましょう」とか「こうだから、通常皆さんこうしていますよ」となるところ、白形社長は、「こういう案もありますけど、こういう案もありますよ。どちらがいいかお二方で決めてみてください」といった感じで選択肢を複数あげてもらった上で決めさせてもらえるっていうことが多かったです。最初のうちは、何もわからないんだから決めてほしいと感じることもありましたが、今振り返ってみると、全部が自分たちで決めてきた選択なのでこれで良かったと思います。
博之さん:選択肢を示してくれるだけでなく、理由とかも、知識のない人間にも納得できるよう説明してもらったのも助かりました。あの時、決めさせてもらえたから、今も二人で相談して、考えながらやっていけているんだと思います。
友香さん:本当にそう思います。白形社長に依頼できてよかったです。

地域の絆を引き継ぎたい 屋号はそのままに
――前のオーナー様にはどのような思いですか。
博之さん:素晴らしい土台を築いてくださった前のオーナーさんに感謝しています。患者さんもご近所さんも皆さん、気軽に話しかけてくれますし、優しくしてもらっています。大事にしてきた絆を引き継ぐことができたからだと思います。
――『桜花堂』の屋号も引き継ぎましたね。
博之さん:そうです。すごい、いい名前だなと思いましたので。
友香さん:それにうちの娘の名前にも「花」という漢字が入っているんですよ。やはり地域の皆さんのことを考えたときに、ガラッと変わってしまうと戸惑いがあるかなと思いまして、名前を引き継ぐことにしました。それと同時に私は当初、プレッシャーがあったんです。前のオーナーさんと比べられて、前よりも悪くならないようにしなければと。お陰様で、患者さんたちも、以前通り来ていただいているのでほっとしています。
患者様に提案できる関係に
――今後はどのようにステップアップしてきたいですか。
友香さん:ええ。次は第二の目標である「地域に根づいた薬局」に向けて、進んでいきたいです。たとえば、毎度、湿布薬を処方してもらうためだけに遠くの整形外科に通っている患者さんに対して「(近くの)内科でも湿布薬は出してもらえますよ。相談してみては」と説明したら「そうしてみます」と喜んでいただけました。
博之さん:僕は認知症のご家族に、薬を飲んでもらうタイミングについてアドバイスしたことがあります。「機嫌が悪いとなかなか服薬してくれないので、病気が悪化してしまう」と困っていました。僕は、特養で24時間、お年寄りの世話をしていたので、そのあたりの対応はよくわかります。
――そこまでしていただけたら、もう家族ぐるみで、通い続けたくなりますね。
友香さん:ありがとうございます。こうやって、“かかりつけ”ならではの役割を広げて行って、気軽に頼ってもらえるような、そんな存在になっていきたいと思っています。

(取材・文 木原洋美)
(撮影 武藤奈緒美)
友香さん、博之さん、喜んでいただいて嬉しいです。
「選択肢を提示する」のは、私が仕事する上で意識し、大切にしていることです。というのも、経営するということは、日夜、さまざまな判断を何回も何十回もしなくてはならないと考えているからです。まして中小薬局では、他の誰にも判断を委ねることはできないし、誰かに委ねるようでは上手くいかないと思うので、ご希望を聞いた上で、ご希望に沿う選択肢を示して判断していかれることに慣れていただくことにしました。最悪な選択肢は回避しつつ、複数の選択肢と、そのメリット・デメリットをご提示させていただきました。何もかも初めてのお二人には、大きなプレッシャーになったと思いますが、その都度、喜多村様にとってのベストの選択をしてこられたと思っています。
今後はスタッフも雇い、新しい試みにも挑戦されて行くそうですが、お二人ならきっと上手くいくはずです。これからも応援しています。