買う買われるではなく、志を共にするM&Aを推進
今回は、事業を引き継ぐ側から見たオーダーメイドの事業承継の魅力に迫ります。
お話を聞かせて頂いたのは株式会社メディカルシステムネットワークの、田中義寛副社長と、経営戦略本部の上田尚美マネジャー。
1999年の創業以来、全国400余りの保険薬局を運営するメディカルシステムネットワーク。中核事業の1つである医薬品ネットワークには、全国約6万件の薬局のうち、1割以上が加盟し、この業界ならば“誰もが知る企業”です。M&Aにあたって大切にしていることを聞きました。
大手と中小の薬局はどちらも必要、理想は共存共栄
Q:地域住民の健康を支えるトータルサービスとして、さまざまな事業を展開しておられますね。
田中副社長(以下、敬称略):当社は医薬品卸会社との価格交渉・決済の代行、不動品消化サービスの提供等を行う医薬品ネットワーク事業からスタートしました。その後、薬局の経営相談に乗るようになったことをきっかけに、調剤薬局事業に参入し、近年は医薬品製造販売事業やデジタルシフト事業など、さまざまな事業を手掛けています。医療サービスは地域ごとにニーズが異なりますから、全国一律ではなく地域密着型で事業を推進しています。
Q:その中でも最近は医薬品ネットワーク事業を強化されていると。なぜ医薬品ネットワーク事業に力を入れているのでしょうか。
田中:業界のためには資本力のある大手もそうではない中小もどちらも必要で、中小の調剤薬局の力になりたいと思っているからです。調剤薬局の業界では、大手の間で競争が激化していますがコンビニのような寡占化は地域にとっては好ましくありません。中小の調剤薬局によるきめ細やかな対応が不可欠です。地域住民と家族ぐるみで長いお付き合いをしたり、緊急時には時間外でも柔軟に対応したりできるのが地域密着の中小の薬局の得意とするところです。当社はそんな地域でがんばっておられる中小の薬局さんを応援したいと思っています。
Q:地域密着の調剤薬局を応援したいと。M&Aもその思いで取り組んでいるんですか。
田中:はい。ビジネスとしては“売主”と“買主”という言い方をしますが、当社では「買う・買われる」ではなく、「一緒にやっていく」という感覚を共有できる薬局に加わっていただきたいと考えています。初めのうちは企業風土が異なりますから、摩擦も起こります。しかし“地域住民の健康に貢献する”という志を共有できれば、それも乗り越えていけます。実際、これまでにM&Aで入社した社員が本社の事業部長になるなど、出身企業の垣根を越えて活躍しています。
ジェネリックやDX推進にネットワークは不可欠
Q:2021年末時点で調剤薬局は424店舗、医薬品ネットワークへの加盟は7000件を超える規模だと。事業は拡大し続けていますね。
田中:規模拡大は目的ではありませんが、中小薬局にとってネットワーク化のメリットは大きいと思います。当社ではジェネリック医薬品を扱う医薬品製造販売事業とともにデジタルシフト事業に注力しています。
Qデジタルシフト事業ですか。
田中:はい。DX=デジタルトランスフォーメーションを進めるのは、中小薬局にとって容易ではありませんが、DXが実現できるとさらにきめ細やかな患者さんへの対応が可能になると考えています。例えば、LINEの活用です。LINEを使うことで調剤までの待ち時間を減らしたり、投薬後に患者さんに連絡をとることでこれまでに気づけなかった副作用に気づけたりすることがあります。当社ではデジタルシフト事業として業界共通のサービス・プラットフォームを構築し、中小薬局のDXを支援したいと考えています。
Q:白優社の仲介によって、神奈川県の薬局が新たにグループに加わりました。
上田:白優社の白形さんとは2019年からのお付き合いです。当社のM&Aの方針や求めている薬局のイメージをお伝えし、ご紹介をお願いしました。仲介会社の中には、その薬局のデータを持ってくるだけで、実際の店主のお人柄や事業承継を検討するに至った思いを把握されていない担当者が多いのですが、白形さんは、そのあたりを尋ねてもきちんと理解をされ伝えてくれます。当社の期待する情報を提供してくれました。
田中:この業界のM&Aは難しく特殊です。譲受する方は1年に何度も売買を経験するベテランですが、譲渡する方は、一生に一度あるかないかの経験です。何度も経験するベテランと初めての人の間で売買をするわけですから、仲介会社の立場によっては譲受する方と譲渡する方のどちらかに偏ってしまうこともあります。
譲渡する方の薬局に対して無理な好条件をそのまま伝えたり、反対に、かなり不利な条件で話を進めたり。そういうことはあまり健全ではありませんし、業界全体にとっても良いことではありません。
Q:そういうことがあると最も重要な信頼関係がなくなってしまいそうです。
田中:一番信頼できるのは、譲受する方と譲渡する方のどちらかに肩入れするのではなく、イコールスタンスで進めてくれる仲介会社です。そのためには、双方の譲れないポイントを深く理解し、一方だけに我慢を強いることなく落としどころを探らないといけません。双方の満足度の合計値が最大化する仲介が最良です。
Q:今回成約に至った決め手は何だったのでしょうか?
田中:まずは複数のクリニックの処方箋を受け付けていること。現在の調剤報酬制度では1つの医療機関からの集中率が高いと点数が下がりますから、複数のクリニックに対応していることは重要な要素です。また、事業の継続性の点で、周辺クリニックのドクターの年齢にも注目しました。今回の薬局は複数のクリニックから処方箋を受けており、いずれのドクターもお若かったため、条件に合致すると判断しました。
上田:立地にもこだわっていて、高齢者人口が増えていく都市部を希望しています。また、M&Aとしては1店舗でも構わないのですが、既存店舗に近ければ薬局間で薬や人材を融通することができるので、当社進出エリアの近隣でお願いしました。これまで白形さんとコミュニケーションを取る過程で、イメージをすり合わせしてきたことが、今回のご縁につながったと思っています。
Q:なるほど。様々な条件をクリアする必要があるんですね。その点、白形さんはどうでしたか。
田中:20社以上の仲介会社と付き合いがありますが、担当者の出入りが激しく調剤薬局のことをよくわかっていない担当者も多いのが現状です。この業界のM&Aは、承継する上で確認しなければならない独特な法規制や慣行も多いです。白形さんは、もともと買主としてお仕事をされていたこともあり、我々が聞きたいポイントや譲れないポイントを全部わかっているので、スムーズに進めることができました。
Q:最後に御社のビジョンをお聞かせください。
田中:当社の医薬品ネットワークには毎年1000件以上が加盟し、数年内に業界シェア2割に達する見込みです。このあと業界再編で市場が変化していくと思われますが、そこで存在感を発揮するには引き続きM&A戦略が重要ですし、新規出店も進めていく必要があります。それと同時に、ジェネリック医薬品の医薬品製造販売事業とDX推進のデジタルシフト事業を今後4年間でさらに加速させていきます。
今後も時代とともに社会の在り様は変わっていくことでしょう。そうしたなかでも当社は良質な医療インフラを創造し、生涯を見守る「まちのあかり」として、白優社さんのような信頼のおけるパートナーと一緒に地域の健やかな暮らしに貢献していきたいと思っています。
インタビュアー:株式会社サイエンスデザイン 林愛子
撮影:武藤奈緒美
会社概要
株式会社メディカルシステムネットワーク
設立
1999年9月16日
資本金
2,128百万円 (2021年3月31日時点)
代表者
代表取締役社長 田尻 稲雄
事業内容
医薬品ネットワーク事業、調剤薬局事業、医薬品製造販売事業、デジタルシフト事業、賃貸・設備関連事業、給食事業、訪問看護事業
本社
札幌市中央区北10条西24丁目3番地 AKKビル
ホームページ
https://www.msnw.co.jp/